前回のパートでは、金融活動を理解するのに必要な通貨周りの概念について扱いました。
今回のパートでは、実際に金融活動を行う主体について目を向けます。前回のパートを振り返りながら取り組みましょう。
金融機関
あらゆる金融活動の仲介となる金融機関について、基本的なことを知っておきましょう。
金融機関の役割
金融における資金の移転方法には直接金融と間接金融の2種類があります。
直接金融と間接金融については証券外務員コースのレッスン1で詳しく扱っているので、こちらを参照してください。ここでは概要のみに触れます。
資金の移転方法 | 説明 |
---|---|
直接金融 | 証券市場で企業や政府が株式を発行し、資金調達する方法。資金不足主体が発行した証券を、資金余剰主体が購入する。 |
間接金融 | 銀行によって企業に資金が貸し出される方法。金融機関が資金余剰主体から資金を調達し、資金不足主体に貸し付ける。 |
金融機関は「金融活動の仲介」を行うと述べましたが、直接金融か間接金融かによって担う役割は変わってきます。
- 直接金融:金融商品の取引を仲介を行います。
- 間接金融:資金の貸し出し・貸し付けを行います。
金融機関の種類
銀行
銀行はさらに以下の三つに分類されます。
- 日本銀行
- 普通銀行
- 信託銀行
中小企業金融機関
中小企業金融機関はさらに以下の三つに分類されます。
- 信用金庫
- 信用組合
- 労働金庫
- 商工組合中央金庫(商工中金)
農林系統金融機関
農林系統の金融を担っているのは、農林中央金庫(農林中金)です。民間最大の機関投資家となっています。
保険会社
保険会社は「保険業法」によって内閣総理大臣から免許を受けています。
証券市場における有力な機関投資家です。
- 生命保険会社(生保)の資金は主に長期運用
- 損害保険会社(損保)の資金は主に短期運用
金融証券取引業者
金融証券取引業者とはレッスン1「証券外務員とは」でも触れた通り、金融商品取引法に規定された金融商品を取り扱うため、金融庁に登録を受けた業者のことです。 証券会社、投資信託委託会社などを指し、直接金融の主たる担い手とされています。
証券金融会社
証券金融会社では、「金融商品取引法」に基づき免許を受けて、信用取引の決済に必要な資金や有価証券を、証券会社に貸し付ける貸借取引を行うことを業務の中心としています。
現存しているのは、日本証券金融のみです。
短資会社
短資会社とは、コール市場や手形市場において、短期金融市場の金融機関相互の資金取引の仲介業務を行っています。
ノンバンク
消費者金融会社、クレジットカード会社、信販会社、リース会社等をまとめてノンバンクと呼びます。預金を受け取ることなく、お金を貸すといった与信業務に特化しています。
かつては資金調達の大部分を銀行借入れに頼っていましたが、社債発行が認められたため、現在は社債発行によって得た資金によって貸付業務を行えるようになっています。
金融市場
金融市場とは、資金のやり取りが行われる市場全体のことを指します。
金融市場の概要
金融市場は取引される金融の満期までの期間と参加者で5種類に分類できます。
- 短期金融市場…金融資産の満期までの期間が1年未満
- 長期金融市場…金融資産の満期までの期間が1年以上
- インターバンク市場…参加者が金融機関のみの短期金融市場
- オープン市場…一般事業法人や非金融機関も参加可能な短期金融市場
- 貸付け・預金市場…市場を通さない、売り手と買い手の当事者間の取引の場(厳密には市場ではない)
インターバンク市場
インターバンク市場は金融機関同士が短期の資金過不足を調整し合う市場です。資金余裕のある金融機関が資金の出し手、資金不足の金融機関が資金の受け取り手となります。
日銀の資金調節や金利誘導の場となっており、金融政策を見るうえで重要な市場です。
インターバンク市場はさらに二つの市場に分類できます。
コール市場
- 金融機関相互のごく短期の資金過不足を調整する場。
- 一般的には、資金の最大の出し手は信託銀行(投資信託銀行等を含む)である。
- コールには、有担保コールと無担保コールがあり、ともに翌日物(オーバーナイト物)と各種期日物があるが、翌日物が中心となっている。両方とも短資会社が資金の仲介役として重要な役割を果たしている。
手形市場
- 取引される手形は、優良な企業が振り出した手形と、国債や政府保証債等の公社債および外貨手形を担保に銀行が振り出した手形が中心。
オープン市場
オープン市場はさらに四つの市場に分類できます。
① レポ市場(現先・債券レポ)
- レポ取引の行われる市場。レポ取引(現先取引)とは、あらかじめ一定期間後に一定の価格で買い戻す、あるいは売り戻すことを条件に行われる売買取引。
- 現金担保付債券貸借取引と呼ばれる現金を担保とした債券の貸借取引がスタートし、その規模を拡大している。
※債券レポ取引は国際基準と異なることから、平成13年からは国際標準に則った新現先取引と呼ばれる取引が導入された。リスク管理や取引の利便性が高められたことで取引規模が拡大している。
② CD市場
- CDが取引される市場。CD(Negotiable Certificate of Deposit)とは、譲渡性預金証書の略称。第三者に譲渡可能な大口預金のこと。
- CDの発行者は預金業務が認められている金融機関に限られており、発行残高の4割程度は都市銀行となっている。
- 預入者は、金融機関、証券会社、短資会社等のCDのディーラー。
- 取引されるCDの期間は1~3か月物が中心。
③ 国庫短期証券市場
- 国庫短期証券が取引される市場。国庫短期証券は償還期限が1年以内の割引債のこと。
- 国庫短期証券の償還期間は2カ月、3か月、6カ月、1年の4種類。日銀の公開市場操作の対象となる。
④ CP市場
- CPが取引される市場。CPとはコマーシャルペーパーの略であり、優良企業が短期資金を調達するためにオープン市場で割引方式により発行する約束手形。
- CPの流通形態は3か月ものが多く、ほとんどが現先取引で行われる。
金融政策
金融政策とは、中央銀行が行う金融面からの経済政策の事です。
具体的には以下の二つを目的としています。
- 物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること
- 決済システムの円滑かつ安定的な運航を確保し、金融システムの安定に資すること
金融政策の手段
日銀は上記の目標を達成するために、様々な方法で金利を調節します。
具体的には以下の二つです。
- 公開市場操作(オペレーション)
- 預金準備率操作
実際には、公開市場操作(オペレーション)が金融政策の中心です。 日銀の日々の金融調節は、日本銀行政策委員会が金融政策決定会合で決定した金融市場調節方針に従い、公開市場操作(オペレーション)によって行われています。
さて、先ほど紹介した二つの金融政策手段についてもう少し詳しく見てみましょう。
公開市場操作
公開市場操作とは、日銀発行の国債を売り出しあるいは買戻しすることによって銀行の保有残高を操作し、間接的に短期金利に影響を与える政策です。
預金準備率操作
日本の準備預金制度では、金融機関に対して、その受け入れている預金等の債務の一定比率以上の金額を日銀当座預金に預け入れることを義務付けています。この比率を預金準備率と呼びます。
これを増減させることで、間接的に金融市場に影響を与えることを預金準備率操作といいます。
政策自体の効果に加え、政策を公表することによる人々への心理的効果(アナウンスメント効果)も預金準備率操作の目的の重要な部分です。
基本的に不況時には預金準備率を下げ、好況時には上げます。 以下では預金準備率を下げた場合に起こることを図で示しました。預金準備率を上昇させた場合は、この図と逆のことが起こります。
金融市場の変貌
以下は近年の注目すべき金融市場の動向です。
ユーロ市場の発展
発行国以外で取引される通貨をユーロマネーと呼び、ユーロマネーが取引される市場をユーロ市場と言います。取引の中心地はロンドンです。
各国の国内金融市場に存在する規制に拘束されず、取引の手続きも簡便であることから、ユーロ市場は国際金融市場の中核的存在です。政府、政府機関、国際機関、民間企業などの資金調達の場として盛んに利用されています。
BIS規制の導入
BIS(Bank for International Settlements)とは、世界の主要国中央銀行の出資によって設立された国際決済銀行のことです。中央銀行間の決済や国際金融問題に関する協議・調査を行っています。
BIS規制とは、この国際決済銀行の常設事務局が定めた、自己資本比率規制の事です。2017年に枠組みの更新が行われ、2019年に完全施行されています。
ペイオフの解禁
ペイオフ(預金保険)制度とは、金融機関が破綻した場合、そこに預けてある預金などを一定額まで払い戻す制度です。払い戻しの限度は原本1000万円とその利息分です。
ペイオフ解禁(2005年)以前は払い戻しの額に上限はありませんでした。